ムーンライト
静かで小さな映画がアカデミー作品賞を獲った例です。派手さは一切ないので、その代わりに何が置かれているのかを書きます。
ネタバレについて:この記事はネタバレなしで書いています。結末や物語の核心に触れる内容は載せていません。
作品データ
- 監督・脚本
- バリー・ジェンキンス
- 出演
- トレヴァンテ・ローズ、アシュトン・サンダース、アレックス・R・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス
- 上映時間
- 111分
- 日本公開
- 2017年3月
あらすじ(ネタバレなし)
マイアミの貧困地区。「リトル」と呼ばれていじめられている無口な少年シャロンは、麻薬の売人フアンに拾われ、初めて自分を気にかけてくれる大人に出会います。母は薬物に依存し、家に居場所はありません。
物語は少年期、高校時代、そして大人になってからの三つの章に分かれ、それぞれ別の俳優が同じ人物を演じます。彼が自分をどう扱ってよいか分からないまま生きていく時間が、静かに積み重ねられます。
ここが見どころ
三部構成と三人の俳優
章ごとに主演が変わりますが、目つきと猫背だけで同一人物だと分かります。変わっていく部分と、変わらない部分の描き分けが非常に繊細です。
海で泳ぎを教わる場面
フアンがシャロンを海に浮かせる数分。この映画でほぼ唯一、少年が守られている時間で、以降の全部がここを基準に測られます。
色と光
青を基調にした照明で、黒い肌の質感を丁寧に写しています。それまでの映画があまり撮ってこなかった肌の色を、美しく撮ることそのものが主張になっている作品です。
この映画について:三つの時期を、三人の俳優で。ほとんど何も起きないのに強い。
事件らしい事件はほとんど起きません。会話も少なく、説明はさらに少ない。それでも111分を通して一人の人間が確実に変わっていくのが分かるのは、身体の演出が徹底しているからです。姿勢、視線、声の高さ。
終章のダイナーの場面が特に見事で、ほとんど何も語られないのに、二人の間で何が起きているかが全部伝わってきます。感情を台詞にしないという選択が、ここで最大の効果を出します。
テンポは遅く、劇的な展開を求めると退屈に感じるはずです。また題材の性質上、鑑賞にはある程度の集中が要ります。静かに観られる状況で再生することをおすすめします。
この作品の良さ
- 三部構成と身体の演出による、人物の変化の見せ方
- 感情を台詞にしない終章の完成度
- 肌と光を丁寧に撮る撮影
当サイトの評価
三つの時期を、三人の俳優で。ほとんど何も起きないのに強い。
| 項目 | 点数 |
|---|---|
| 脚本 | 4.5 |
| 映像美 | 4.9 |
| 音楽 | 4.7 |
| 演技 | 4.9 |
| 余韻 | 4.9 |
世間ではどう評価されているか
- 米アカデミー賞
- 3冠 作品賞・助演男優賞・脚色賞
- 製作費
- 小規模 低予算での作品賞受賞
- 授賞式
- 取り違え 作品賞の発表ミスでも話題に
第89回アカデミー賞で作品賞・助演男優賞・脚色賞の3部門を受賞。授賞式では作品賞の発表が一度取り違えられるという前代未聞の出来事があり、そちらでも大きく報じられました。
低予算の小さな作品が作品賞を獲ったこと、そして黒人の登場人物だけで構成された作品として初の受賞だったことから、賞の歴史の中でも節目として扱われています。
こんな人におすすめ
- 静かな人間ドラマが好きな人
- 説明の少ない映画を味わいたい人
- 『たかが世界の終わり』『アフターサン』が好きだった人
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