ハウルの動く城
呪いで90歳の老婆にされた少女が、動く城で暮らし始める。物語の整理は決してよくないが、動く城の造形と久石譲のワルツだけで観る価値がある。
観ていて楽しい映画ではありません。それでも、俳優としてのビートたけしを語るなら外せない一本です。
ネタバレについて:この記事はネタバレなしで書いています。結末や物語の核心に触れる内容は載せていません。
1923年、済州島から大阪へ渡ってきた金俊平。彼は圧倒的な体力と暴力性を持ち、周囲を力で従わせながら生きていきます。
蒲鉾工場を興して財を成す一方で、家庭では妻子に暴力を振るい続けます。愛人を作り、家に連れ込み、金を貸して取り立てる。彼の行動原理には、他者への配慮というものが存在しません。
戦中から戦後、高度成長期へと時代が移っても、彼のやり方は変わりません。子どもたちは彼を憎み、離れていきます。そして老いが訪れます。
この俳優のフィルモグラフィの中でも異質な役です。愛嬌もカリスマ性も与えられていない。ただ暴力的で身勝手な男を、笑いも救いもなく演じ切っています。
普通、一代記ものは主人公に何らかの魅力を持たせます。本作にはそれがない。観客が寄りかかる場所を意図的に奪っているため、観るのに体力が要ります。
大阪の在日コリアン集落が、戦中戦後を通じてどう変わっていったか。背景として描かれる部分に、記録としての価値があります。
梁石日の自伝的小説が原作で、作者の父をモデルにしていると言われます。だからでしょうか、この映画には「なぜこの男を描くのか」という問いへの答えが用意されていません。ただ、こういう人間がいた、という事実だけが置かれている。
崔洋一の演出は徹底して距離を取ります。暴力の場面を煽らず、かといって目を逸らしもしない。説明も断罪もしないという姿勢が、かえって重さを生んでいます。
暴力描写は執拗で、特に家庭内の場面は観ていて苦しい。娯楽として成立させる気がまったくない作りなので、心構えなしに観ると後悔します。
それでも、この時代のこの場所を描いた作品として、代替の効かない位置にあります。日本アカデミー賞をはじめ各賞で評価されたのも納得です。
暴力そのものとして生きた男の、一代記。
| 項目 | 点数 |
|---|---|
| 脚本 | 4.2 |
| 映像美 | 4.3 |
| 音楽 | 4.0 |
| 演技 | 4.8 |
| 余韻 | 4.4 |
梁石日の自伝的小説を原作に、崔洋一が監督した作品です。日本アカデミー賞をはじめ、この年の国内映画賞で複数の賞を受けました。
ビートたけしの俳優としての仕事の中でも、とくに異質な役として言及されることの多い一本です。
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