
BUDAPEST HOTEL
グランド・ブダペスト・ホテル
ウェス・アンダーソン監督の作品は「おしゃれ映画」と一括りにされがちですが、この一本はその見た目の下に、はっきりした喪失感が敷かれています。そこも含めて紹介します。
ネタバレについて:この記事はネタバレなしで書いています。結末や物語の核心に触れる内容は載せていません。
作品データ
- 監督・脚本
- ウェス・アンダーソン
- 出演
- レイフ・ファインズ、トニー・レヴォロリ、シアーシャ・ローナン、エイドリアン・ブロディ
- 音楽
- アレクサンドル・デスプラ
- 製作国
- アメリカ・ドイツ
- 上映時間
- 100分
- 日本公開
- 2014年6月
あらすじ(ネタバレなし)
架空の国ズブロフカ。かつて大陸随一の格式を誇ったグランド・ブダペスト・ホテルに、伝説的なコンシェルジュ、グスタヴ・Hがいました。客あしらいは完璧、詩の朗読が趣味、そして高齢の女性客と親密になるのが常です。
ある日、常連客だった大富豪の老婦人が急死し、遺言によって名画『少年と林檎』がグスタヴに遺されます。激怒した遺族は彼に殺人の濡れ衣を着せ、グスタヴは投獄されてしまう。
彼を助けるのは、雇われたばかりのロビーボーイ、ゼロ。脱獄、追跡、雪山でのカーチェイスと、話はどんどん荒唐無稽になっていきます。そして背景では、この国が戦争へと飲み込まれていく。
ここが見どころ
画角が時代で変わる
1930年代の場面は正方形に近い比率、1960年代はシネスコ、現代は標準と、時代ごとに画面の縦横比が変わります。説明は一切ないのに、今どの時代の話かが一目で分かる。
徹底した左右対称
ほぼ全カットが真ん中で割れる構図で、人物はカメラの正面を向きます。作り物であることを隠さない。この様式が、荒唐無稽な話を成立させる約束事になっています。
アレクサンドル・デスプラの音楽
ツィンバロムやバラライカを使った軽快な曲が全編を走ります。悲惨な出来事が起きても音楽は軽いままで、それがかえって寂しさを増幅させます。
彼の世界は、彼が足を踏み入れるずっと前に消えていた。
ゼロ・ムスタファ(劇中の台詞より)
この映画について:画面の作り込みだけで最後まで観られる、稀有な一本。
まず、見た目だけで元が取れる映画です。どこで止めてもポスターになるという水準で画面が作り込まれていて、色、小道具、書体まで統一されている。映像美の点を5.0にしたのは、ここに迷いがないからです。
そのうえで、話の中身は意外と冷たい。主人公が守ろうとしているのは礼儀と格式という、もう誰も必要としなくなりつつあるものです。物語は入れ子構造になっていて、これが「失われたものについての回想」であることが最初から示されている。にぎやかな喜劇の形をした、消えた時代の弔いだと思っています。
弱いと感じるのは物語そのもので、事件の展開はかなり行き当たりばったりです。次に何が起きるかを楽しむタイプの映画ではなく、様式を味わう映画。ここが合わないと、100分でも長く感じるかもしれません。
この作品の良さ
- 全カットが計算された、圧倒的な画面設計
- 時代ごとに画角を変えるという説明不要の仕掛け
- レイフ・ファインズの、上品さと下品さを同居させた芝居
- 軽い音楽と重い題材の落差
当サイトの評価
画面の作り込みだけで最後まで観られる、稀有な一本。
| 項目 | 点数 |
|---|---|
| 脚本 | 4.4 |
| 映像美 | 5.0 |
| 音楽 | 4.6 |
| 演技 | 4.6 |
| 余韻 | 4.3 |
世間ではどう評価されているか
- IMDb
- 8.1 /10
- 米アカデミー賞
- 4冠 美術賞・衣装デザイン賞ほか
- ノミネート
- 9 部門
第87回アカデミー賞で9部門にノミネートされ、美術賞・衣装デザイン賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞・作曲賞の4部門を受賞しました。作品賞と監督賞は逃していますが、技術系の部門をまとめて制したという結果が、この映画の性格をよく表しています。
ウェス・アンダーソン監督の作品としては最大のヒット作でもあり、以降「ウェス・アンダーソン風」という言い方が一般に広まるきっかけになりました。
こんな人におすすめ
- 映像や美術の作り込みを味わうのが好きな人
- 少し変わった、様式的な映画を観てみたい人
- 『アメリ』『ムーンライズ・キングダム』が好きだった人
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