正欲
居心地の悪い映画です。そして、その居心地の悪さが目的の作品です。
ネタバレについて:この記事はネタバレなしで書いています。結末や物語の核心に触れる内容は載せていません。
作品データ
- 監督
- 岸善幸
- 原作
- 朝井リョウ『正欲』
- 出演
- 稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香
- 製作国
- 日本
- 公開
- 2023年11月10日
- 受賞
- 第36回東京国際映画祭 最優秀監督賞・観客賞
あらすじ(ネタバレなし)
検事の寺井啓喜は、不登校になった息子への接し方に悩んでいます。「まっとうな人生」を歩ませたいという彼の願いは、息子には届きません。
ショッピングモールの寝具売り場で働く桐生夏月は、地元の生活に閉塞感を抱えたまま日々を過ごしています。彼女には、誰にも言えない性的指向がありました。
大学のダイバーシティフェスを企画する学生、その周囲の人々。それぞれ交わらないように見えた人生が、ある事件を通じて接触します。彼らを結ぶのは、社会が想定していない欲望の形でした。
ここが見どころ
「多様性」への批判
この映画が刺すのは、差別する側だけではありません。「多様性を認めよう」と言う側が、認める対象をあらかじめ選んでいるという構造を突きます。ここが最も痛い。
新垣結衣の配役
明るいイメージの強い俳優を、誰とも通じ合えない人物に当てています。表情をほとんど動かさない演技で、これまでの印象を意図的に裏切っている。
稲垣吾郎の検事
善意で動き、そのことに疑いを持たない人物です。悪人ではないからこそ怖い、という造形が徹底されています。
この映画について:「多様性」という言葉が、いかに都合よく使われているか。
原作の朝井リョウは、読者が安心して立てる場所を用意しない作家です。この映画もそれを引き継いでいて、誰にも感情移入させないまま話が進みます。観客は最後まで足場を得られません。
扱っている題材の性質上、内容には踏み込みません。ただ、この作品が問うているのは「理解できないものを、理解しないまま尊重できるか」という一点です。多くの物語が最終的に理解に着地するのに対し、本作はそれを拒みます。
岸善幸の演出は硬質で、感情を煽りません。音楽も最小限です。観客が泣ける場所を作らないという判断が一貫していて、それが誠実だと思います。
楽しい映画では全くありません。人によっては強い不快感を覚えるはずです。それでも、いま作られる意味のあった作品だと思っています。
この作品の良さ
- 「多様性」という言葉の使われ方を問う視点
- 誰にも感情移入させない構成
- 新垣結衣の、イメージを裏切る配役
- 理解に着地しない誠実さ
当サイトの評価
「多様性」という言葉が、いかに都合よく使われているか。
| 項目 | 点数 |
|---|---|
| 脚本 | 4.5 |
| 映像美 | 4.1 |
| 音楽 | 4.0 |
| 演技 | 4.6 |
| 余韻 | 4.5 |
世間ではどう評価されているか
- 東京国際映画祭
- 最優秀監督賞 第36回
- 同
- 観客賞 ダブル受賞
- 原作
- 朝井リョウ の小説
朝井リョウの小説『正欲』を原作とし、第36回東京国際映画祭で最優秀監督賞と観客賞をダブル受賞しました。
「多様性」をめぐる言説そのものを問いの対象として扱った点が、公開当時から議論を呼びました。
こんな人におすすめ
- 朝井リョウの小説が好きな人
- 居心地の悪さを引き受けられる人
- 安易な理解に着地しない作品を求めている人
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